浅い水飲み干し喉をうるおして気持ちいいの

朝井リョウさんの『何様』を読んだ。
この本は、映画化もされている『何者』のアナザーストーリーで、短編6話が収録されている。なので、『何者』とセットで読む人が圧倒的に多いようだ。自分は『何者』は公開当時に映画館で観たが、原作は読んでいない。にも関わらず『何様』を読みたいと思ったのは、NHKで放送されている『言葉にできない、そんな夜。』という番組に朝井リョウさんが出演していた際に、この本に収められている『逆算』という話から一部文章が紹介されていて興味を持ったからだ。

読んでみると、どの話にも自分の話だと感じる部分があった。共感する部分は、その話のメインテーマである話もあれば、メインテーマから少し逸れた部分である話もある。けどどの話でも、無意識的で、誰にもバレてないと思い込んでた思考が、ひょっとしたらこんなことを思うのは自分だけなのではないかとさえ思っていた気がする思考が、6つの話の中で次々と暴かれている気持ちになった。中でも特にこの本を読むきっかけとなった『逆算』は、読み終わってしばらく引きずるような感覚があった。(細かく言うと、『きみだけの絶対』という話だけは共感とは違う印象を受けたのだけど。)人間の感情や思考を敏感に捉えて、こんなにもそのままの解像度で描いてしまう朝井さん、やっぱり凄い。
図書館で単行本を借りて読んだけど、若林さんの解説が収録されてなかったのと、この本は手元に置いときたいと思いあらためて文庫版を買った。

ここまで書いてから、若林さんの解説を読んだ。
正直、はじめは恥ずかしくなった。若林さんによって令和元年に書かれたそれを読むと、自分がまだ若いということを感じざるを得なかったからだ。
もちろん、環境だったり、性格にもよるだろうけど、まだ社会に適応しきってない、奥底で何かに抗おうとしてる部分があるから、こんなにも共感したのだろうと、この解説を読んで思った。実際、若林さんも解説執筆の3年前に初めてこの本を読んだ時は登場人物たちと近い立場で読んでいたらしい。

周りの人たちに不確かな夢を公言し応援されることでそれを確かな夢へ変えたいと願う主人公。
自分より賢い人と居心地良く居られない主人公。
特別なきっかけや覚悟を信じたくなってしまう主人公。
大切な人に正しい姿しか見せられないブレーキの強い主人公。
簡単に当事者になったフリをしていると感じてしまう主人公。

いつかまた何年後かにこの本を読んだ時、私は若林さんと同じように、もがき苦しむ登場人物達を"キラキラしてる"と思うのだろうか。もし、そんな風に変化したとしても、自分も、本気の一秒だけは守り抜ける大人であってほしいと思う。