夜明けまでスポットライトそのまま

私立恵比寿中学のアルバム『indigo hour』のレビューです。

 

①Knock You Out!

素晴らしい。。エビ中のファンでもあるという梅田サイファーKennyDoesさん提供のこれまでやってそうでなかった一曲丸々バチバチのラップ曲。

エビ中出席番号の歌 その3』に次ぐ、生まれ変わった自己紹介ソングで、10人体制の「新しさ」を一曲目で分かりやすく提示しつつも、この曲が一曲目にあることで「これまでと変わらずどんどん新しいものに挑戦するよ!」という「変わらなさ」も同時に感じさせる、一曲目に相応しい曲!

リリックもフロウも10人の個性が爆発していてとにかく最高!これは長年エビ中を好きで見てきた人にしか作れない。今の時代、調べたら出てくる情報も多いけど、やっぱりそれだけでは埋まらない部分があって、フロウに表れる「その子らしさ」が聴いていて楽しいし、「なんて最強なグループなの…!アベンジャーズ過ぎる!!」と聴くたびに思う。「Out!」の一言にも一人一人の「その子らしさ」が出ているの、すごい。

あやちゃんと心菜のフロウ特にアガるし、上手すぎる。天才。

けどリリックは和香の「だって私もっとできる」「生涯勉強 マジで生きる」、えまの「やると決めりゃやりぬく」とかが好きだし、そういうのに惹かれるし、そういう子を応援したいと思う(のは自分を肯定するためでもあるのだろう)し、「こっからが沼」は本当にそうだと思う。

もうとにかくライブでキメてくれ!!浴びに行くから!!!!!

 


②Summer Glitter

正直、昨年配信リリースされた時は、『kyo-do?』で今をときめくヤマモトショウさんかと思えば今度はK-POPオマージュで、流石に流行りに飛びつき過ぎじゃない?と感じて、あまり気分が乗らずそんなに聴いてなかった。けどインタビューを読み、この曲から音楽ディレクターが変わっていることを知り、そりゃ曲の雰囲気も変わるのは当然だし、意図的に大きく変えている理由にも納得。

そして、K-POPという流行のものがベースにありつつも『楽園ベイベー』を感じさせるような懐かしさも織り交ぜられていることで新たな音楽になっている。これはアルバムのリード三部作(③BLUE DIZZINESS ⑥CRYSTAL DROP ④TWINKLE WINK)を聴いた時にも感じたし、インタビューでも話されていて確信になった。どの曲も「懐かしさ」と「流行や現代的なもの」の要素が共存する作りになっていて、そういう遊びが好きなので聴いていて楽しい。

 


③BLUE DIZZINESS

今アルバムのリード三部作(三作とも佐藤千亜妃さん作詞)の1つ。ジャージー・クラブを取り入れたサウンドイカしてて、テニスコートや電車のホームで踊っちゃうMVの世界観も最高!

韓国やK-POPが好きな心菜の歌い出しが完璧だし、えまはもうこの曲に限らずだけど、英語の発音もK-POPっぽい滑らかな歌い方も上手くて感動すら覚える。

青春ならではの葛藤や焦燥感を表現したという、どこか不安定さも感じられるメロディーのこの曲。作詞者である佐藤千亜妃さんと高学年メンバー真山・歌穂ちゃんの対談インタビューを読んで、「言いなりじゃなく私がRule」「手を繋いでU & I」「今生まれ変わる」などの歌詞に込められた想いや、長年続けているアイドルとして転換期を迎える中でのメンバー自身の想いがあることを知り、これは紛れもなくエビ中の曲だと確信した。

 


④TWINKLE WINK

こちらもリード三部作の1つ。 

「ウチら最強!」みたいなギャルマインドな仲間達とのプロムパーティーをイメージして作詞したとのこと。

前の曲から一転、パッと視界が開けるような明るさを持ったこの曲は、特に歌い出しの和香の歌声が抜群で、前の曲の余韻を取り払うかのような突き抜けた明るさに思わず泣きそうになる。三部作の中でも、アルバムの中でも一番好きかもしれない。

歌い出し和香の張りのある声と対照的な優しい声で1番サビを柚乃が歌ってるのも良い!

リリースの少し前に『夜明けのすべて』という映画を観たのだけれど、偶然にもこの曲はこの映画と重なる部分が多いと感じる。せっかくなのでここに書き残しておきたい。

プラネタリウム持って忍び込むSchool」は主人公2人が働く会社が学校の体育館(だったよね?)で移動式プラネタリウムを開催する光景と重なり、「泣いて笑ってEvery youth 星が照らすダンスフロア」「君とならば無敵だから」「強がっても本当は ひとりじゃ寂しいから 目と目あわせて繋ぐStep by step」などの歌詞は、初めは分かり合えなそうだった同僚との関わりの中で、次第に理解者となり人と支え合うことで見出せる希望があるということ(を私はこの映画で感じた)を描いていた点で近いものを感じた。そして、「青春のページをめくって色とりどりの夢をみつけよう 夜明けまでスポットライトそのまま 私たちずっとDreamer」という歌詞で終わり、プロムが終わればそれぞれの道へ進むこの曲の主人公達に、最後は別の道へ進む映画の主人公2人が重なる。

この映画が好きだったので、こういう偶然があるとさらに大好きな曲になってしまう。あと佐藤千亜妃さんがインタビューで「プラネタリウムという装置と私立恵比寿中学というグループを重ねて書いた」と話していた。そんなのズル過ぎる。好きに決まってるじゃん。

 


⑤DRAMA QUEEN

意味をあらためて調べると「ドラマのヒロイン、芝居がかった行動を取る人、過剰に騒ぎ立てる人」と。アイドルをドラマのヒロインに見立てた歌詞…?なんて考えたけど、正直分からない。

オートチューンのかかったサウンドと音のハマり方が心地良く、メロディーも好き。ライブでパフォーマンスを観たら何か感じ取れるものがあるのかないのか楽しみ。けどそんなこと忘れてノリノリになってしまう気がするし、それで良いのかも。

 


⑥CRYSTAL DROP

こちらもリード三部作の1つ。

メロディーが気分ではないとあまり繰り返し聴かないので、自習までは数回なんとなく聴いただけだったのだけど、自習の初披露でしっかり歌詞を聴いたら「この曲ってSPEEDが象徴する90年代恋愛バラードの仮面を被った大友情ソングなのでは??」となって、そこから一気に惹かれた。そういう裏切りをエビ中ならしてきそうだと思った、というかむしろ、まっすぐなオマージュはしないと思った、と言った方が正しいかもしれない。

「親友と離れ離れになってしまったときの気持ちが表現されています」との佐藤千亜妃さんのインタビューを読んだ時、心の中でガッツポーズした。聴き手が好きなように捉えれば良いかもしれないけど、やっぱり作者の意図が重なっているのは嬉しい。

それを知った上で聴くと、かほりこ、えまゆなの仲良しペアで歌うパートの威力が一層凄まじい。それと、1番の柚乃のラップパート、柚乃の声がロートーンのラップに凄く合っていて心地良い。

 


⑦Hello another world

高学年メンバーのユニット曲。聴けば聴くほどに好きになっている。

個人的な感覚だけど、子供の頃の夕暮れ時を思い出させるイントロや台詞パートが『幸せの貼り紙はいつも背中に』を彷彿とさせるようで、高学年メンバーだからこそ歌える優しく強い曲だと思う。歌穂ちゃんの柔らかな声で始まるのも曲の世界観にピッタリ。

1番サビを真山と他メンバーがそれぞれペアで歌ってたり、それに次ぐ台詞パートの歌詞や、そのパートを高学年メンバーの中でも期の近い美怜ちゃんとあやちゃんが担っていたりするあたりで、何かを予感させにきてる…?なんて思ったけど深読みが過ぎるか。

 


⑧トーキョーズ・ウェイ!

一番エビ中っぽい!おしゃれなサウンドにシュールな歌詞。『未確認中学生X』『ハイタテキ!』だったり、たむらぱん提供楽曲のようなシュールな世界観がこのアルバムの中にあると、もはや懐かしさすら感じる。

サビのメロディーが好き。

 


⑨STAY POP

低学年メンバーのユニット曲。大学芸会で初披露された時から好きー!ってなった。

超個人的な解釈だけど、柚乃パート「冷めた目なんてEasy ちゃんと聴いてHeart Beat 手探り奏でる未来」を聴いてハッとした。新たな方向性へ向かう中でファンからの批判が出てくるのは仕方ないことだけど、表面だけを見て批判してない?ちゃんと聴いて、感じ取ろうとしてくれてる?っていうメッセージのように思えた。(全然違うかもしれないけど)もしもそうだとしたら、それを歌うのが柚乃なのが凄く良いなと思う。それと、和香が「世界は美しい」って言うならそうかもってなるからありがとね。

タイトルや歌詞に負けじとポップを極めたようなメロディーなのに、突然ラップになったり、かと思えばテンポアップしたり大胆な転調が聴いていて飽きない。

 


⑩kyo-do?

アルバムを締め括るのは10人体制で初めてリリースした曲。ポップで可愛らしいメロディーの中に、言葉遊びや前向きな歌詞が印象的なヤマモトショウさん提供曲。

インタビューで真山が「(kyo-do?は)可愛いをテーマにしていて。当時、今までの私たちの方向性と大きく変わって、自分の中でもどういうライヴをすればいいのか悩んでいた」と話していて、それが結構意外だった。可愛いは可愛いんだけど、とてもエビ中らしい曲だと感じていたからだ。

エビ中は「永遠も踊るし、一瞬も歌える」し、このアルバムは「これから歩んでいく人とのDANCE」なんだと思う。

エビ中に「ねぇ ここに来て 笑い合って」「どんな感動にも僕を選んでよ!」と言われた時に引き続き、「明日も会いに来て」と言われてしまったら私達は会いに行ってしまう。

 

 

 

今回のアルバムはリード三部作という初の試みが特徴的でその存在感が強いけど、他の曲をアルバムの中で一つの作品としてまとめ上げる役割も担っているように思う。

自分を見つめる『BLUE DIZZINESS』、親友との別れを歌った『CRYSTAL DROP』、仲間達とのプロムパーティーをイメージした『TWINKLE WINK』。真山が「世界観が1人から2人、最後全体に広がっていく」と話しており、なるほど!と思った。

それら全てがメンバー自身やグループのことをイメージして書かれ、歌われていること知り、三部作、そして『indigo hour』はやっぱりエビ中の音楽だと思う。何も知らずに初めて聴いたティーンも青春を感じるかもしれないし、自分含めてファンが聴くとエビ中を通した青春(エビ中って青春なので)も感じられるかもしれない。

 


最後に…ココユノノカが三部作を中心に歌い出しや1番サビ、ラップパートなどの目立つパートを担っていて、それがそれぞれハマってるの最高〜!